塵芥
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【泰平記】えあかぷ5
- 2013/04/09 (Tue) |
- 泰平記 |
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頭の牡丹は何の主張だろうか。
篠原の者は依代となった物からの影響を内面にも外面にも強く影響を受けるという。――彼女の頭の牡丹にも何か意味があるのだろうか。
泰慶は給仕に勤しみ疲れた身体を、自身の煎れた茶で癒す紅牡丹の頭をじっと見ていた。
女相手にずいぶんと失礼なことをしている、と頭では解っていたが止めることは出来なかった。
ようよう訪れた泰平の世、国という垣根がなくなりかつてあまり国交の芳しくなかった国の住人とも接する機会が増えた。
その中で最近花散里の若い男達が骨抜きにされているのが、この目の前の紅牡丹という女であった。
その豊満な体つきと大胆な普段着の着こなしは、なるほど若い者には目に毒だ。
ましてそれを紅牡丹自身が自覚しているならまだしも、彼女は自らが周りに振り撒いている色香には全くの無頓着のようで、その外面と内面の落差もまた魅力的なのだろうと思う。
そんな紅牡丹と泰慶の接点はただの物見遊山か野次馬気分で彼女の営む喫茶に訪れた客と、その女店主というだけでしかなかったのだが、話し上手聞き上手な泰慶と、素直に人の話を聴いて関心を示す反応の良い紅牡丹の相性は意外とよかったらしく、こうして休憩時間に上がり込めるほどには親しくなった。
親しくなるほどに彼女の持つ魅力は深い、と感じる。
こういう外見が特に優れた女性は深く付き合ってみて幻滅をしたりするものだが、紅牡丹にはそれがない。そつなくたおやかで乱雑な所も見せない。いや、見せないのではなくないのだろう。
そこを少しつまらないと感じるかはそれは好みの問題だ。泰慶はそう感じる方の人種だったが、それでも彼女を好ましく思う。一緒の空間に居て疲れない、ということは大事なことだ。彼女のまとう空気は誰かを疲れさせたり、苛々させたりしなかった。
そんな紅牡丹を構成するものの中で唯一泰慶が不可思議に思うのは、その頭の不必要なまでに存在を主張している、彼女の名の通りの真っ赤な牡丹だった。
何度会っても、気にしないようにしても、気になる。
彼女という存在の中で、その部分は不自然に思えてならないのだ。
「あの、何か私、おかしいでしょうか?」
おずおずと不安げに問いかけられて、流石に見すぎたか、と反省した。
「いや別に、相変わらず別嬪さんだよ、あんたは」
誤魔化そうとして言った言葉を、紅牡丹が信じなかったのは、そのちょっとむくれた雰囲気で解った。こういう事には聡いのな、と心の中でだけぼやく。
「悪かった、嘘吐いたわ。お前さんの頭の牡丹が気になって仕方ないんだ。
なぁ、その牡丹取るこたぁできねぇのか」
「似合い、ませんか?」
どうしてそこでそうなるのだろう。こんなに魅力的でお前以上に牡丹が似合うのは居なかろうと誰もが言うだろうに。ただ。
「まさかまさか。お前さん以上に牡丹がこんなに映える奴もいねぇさ。
ただなぁ」
「ただ?」
「そんなに美人だと、その牡丹は蛇足かな、とも思ってな」
真っすぐと伸びた髪に、美しい瞳、抜けるような白い肌、小さな口、コロコロと鈴のように笑う声。もうそれだけで完璧なのに、その頭の牡丹は主張が激しすぎて。
「それが無くったってあんたは十分に牡丹のようだから」
そんなもの、無くていいのに。
あー、これはちょいと口説いてるみたいか、気障だったか。と反応が怖かったが、数瞬遅れて牡丹のように頬を染めた紅牡丹の顔が殊の外嬉しそうに微笑んでいたので、泰慶もまた、それにつられて笑った。
