塵芥
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【泰平記】えあかぷ2【腐向け注意】
- 2013/04/09 (Tue) |
- 泰平記 |
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黄泉は自らの変化に酷く頭を悩ませていた。
十七の齢まで、黄泉の背は同年代の男と比べてとても低かった。女装をして日常生活を過ごす黄泉としては、その低身長はとても有り難く、人の目を欺くために便利であったから、それを疎んだことは一度もない。
むしろ喜ばしい事だったというのに。どうしたことか、十八になってから、待ってました!と言わんばかりにめきめきと身長が伸びはじめ、わずか二年で男性の平均身長を追い抜いてしまった。黄泉の苦労はそこから始まる。
身長の高さを誤魔化すために女装時は常に膝を曲げ、かつみっともなく見えないような姿勢や歩き方を研究し、より女らしく振る舞うことで身長を気にさせないようにも努力した。努力の甲斐あってか、いまの身長でも彼女が実は「彼」である、と初見で見抜けるものはいない。
そのことに黄泉は凄く満足しているのだが、やはり時々自らの伸びすぎてしまった身長を思い、ため息をこぼす日はあった。
もっと可愛らしく、女らしく、黄泉ではなく。鼎として――。
その思いが逼迫して、一人べそをかく。
もしもここに幼なじみ達がいたら、伸びてしまったものは仕方ないじゃないか、と慰めてくれただろうが、黄泉は彼等には自分の弱い部分を見せたくなかった。見せられなかった。
そうして、今日も月明かりの下で一人寂しく泣く。
誰にも見られてはいけないその姿を、よりによってどうしてあの男が発見したのか。
「黄泉?泣いてんのかお前」
それは数年前に妻を亡くし実家から絶縁をされ、随分と様変わりをした神津――いや、津田泰慶であった。黄泉は以前のこの男のあまりにも自信過剰な部分があまり好きになれず、あまり積極的に関わっては来なかった。妻子を亡くしてしまったのは不憫だと思うが、それだけで彼への印象が良くなるわけでも無い。
「泣いてないわ」
自分でも白々しいと思う嘘をついて、黄泉はそっぽを向く。泰慶はやれやれとため息を吐いた。その中に、黄泉の事を慮るような情を感じ取ってしまい、黄泉は心の中で取り乱す。
何だって言うんだ。数年前までの周りの人間を全て馬鹿にしていたようなあんたはどこいったんだ。どうせ笑っているくせに、笑えよ!嘲笑えば良い!
黄泉の心中を知ってか知らずか、泰慶はその場に留まったまま口を開いた。
「でかくなったな黄泉。大したもんだよ」
「……何それ嫌味?こんなでかい女気持ち悪いって?」
「いや、なんでそうなるんだよ。……あー、まぁでも俺の言い方が悪かったか」
くそっ、なんだよいきなり大人らしくなりやがって。
黄泉の悪態は、やはり口には出ない。女の姿の時はそれらしく振る舞うよう染み付いていたからというのもあるし、何より不用意に口を開けば喚き散らしてしまいそうだった。
「お前な、あんま気にすんなよ。お前その身長でちゃんと女に見えるしな。中には黄泉の姿知ってても、今のお前と同一人物だって気づいてない奴いるだろ?
あー、まぁ俺が言いたいのはだな、そんなに背が伸びたのに文句も愚痴も言わずに、お前は頑張ってるんだなって事だ。」
頑張るのなんて当たり前だろ。俺はこうしなきゃならないんだ。そう言ってやりたいのに、黄泉の目からは見せたくもない涙が溢れ、声は勝手にしゃくりあげる。
「泣くなよ。……男だろ お前の幼なじみ達だってみんな心配してたぞ」
ああ、もう堪えられない!
「うるっせぇな!もう、なんであんたみたいな奴に慰められなきゃなんないんだよ!畜生!」
ごしごしと目を乱暴に擦る。女の姿でこんな言葉遣い、こんな行動初めてだ。
「お前な、慰められてそれかよ!」
「うっせぇ!ちょっと前まで周り馬鹿にしまくってたくせに!なんだよいきなり!このおっさん!」
「まだ三十路にもなってねえのにおっさん言うな!」
叫んで悪態をつきながらも、黄泉は荒れ狂っていた気持ちがさざ波のように落ち着いているのに気がついていた。
明日から、また鼎として生きて行ける。そんな晴々とした気分だった。悔しいから、この男にはそんなこと教えてやらないのだけれども。
